ルイーズは、一目見た時からクロードが気に入っていた。
新たに護衛騎士が選ばれた時の顔合わせで、彼だけがルイーズの目を惹いたからだ。
ルイーズは二年後、隣国タンタルの第二王子に嫁ぐ。
その時連れて行く護衛騎士を選ぶため、現在の護衛を増員した。
この護衛騎士の中から、精鋭を選んで連れて行くのだ。
ルイーズはすぐに「絶対クロードは決まり」と思った。
ゴツくて脳筋の集まりのような護衛騎士の中で、クロード一人だけが、まるで清涼剤のように涼やかな美男子だったからだ。
嫁ぎ先の王子は何度か会ったことがあるが、だいぶ年上だし、美男子とは言いがたい。
そんなところに若く美しい姫が嫁ぐのだから、見目麗しい護衛を侍らせるくらい可愛いものだろう。

その時ルイーズは、小さい頃に乳母が話してくれた、騎士がお姫様を守る物語を思い出していた。
物語の中の騎士は、身分故に自分の気持ちを隠し、姫のために闘う。
まるで、クロードと自分のようではないかとルイーズは思う。

クロードがルイーズの護衛騎士に選ばれた時、彼はその直前に結婚していた。
しかし彼は新婚だというのに全く自宅に寄り付かず、ずっと王宮に寝泊まりしていた。
ルイーズが呼べば休みであろうとすぐに駆けつけられる距離にいるのだ。
探らせてみれば、彼の結婚は全くの政略結婚で、しかもクロードは兄の身代わりだったという。
妻との仲はかなり拗れているようで、社交界では離縁も秒読みだとまで噂されているらしい。

(だからクロードは、新婚なのに敢えて二年後には隣国に嫁ぐ私の護衛に立候補したのね。要するに、妻より私を選んだってこと…)
ルイーズはそう考えた。
それはあながち間違った考えではなかったのだが、そう仕向けたのが他ならぬ妻であることを、ルイーズは知らない。
そしてやがて、ルイーズは王宮の庭園で、彼の妻を見かけることになる。