「旦那様の心はね、ルイーズ王女殿下で占められているのよ、フェリシー。私には入り込む余地がないくらい…」
「いや、それは無いかと…」
「このまま一年延ばしても、無駄な日々を増やすだけだと思うの。それなら早く決着をつけ、お互い新しい生活に入った方がいいと思うのよ。旦那様だって、隣国に行くまでの一年間でもっと他のことに目を向けられるでしょう?」
「お嬢様は…、本当にそれでよろしいのですか?」
「いいも何も、私もう最近旦那様を見るのが苦しくて。フェリシー、私本当にもう無理なの。これ以上あの人と一緒にいたら、気持ちがどんどん溢れてしまうの。だからもうお別れしたいのよ」
(なんとまぁ、いつの間にこんなに…)
フェリシーは抱きしめていた主人の頭を撫でた。
あの男勝りで未来の女傑とも称されていた女伯爵が、恋を知り、いじいじと侍女の胸で泣いている。
なんと、可愛らしいことか。

「わかりましたわお嬢様。お嬢様が別れたいとおっしゃるならそうなさいませ」
フェリシーはそう言うと再びアリスの髪を撫でた。
真実を知って慌てふためくクロードの姿が目に浮かぶ。
彼の気持ちを知っているフェリシーは彼を可哀想だとは思うが、自分は全面的にアリスの味方だ。
だいたい、ここまですれ違いを放置したクロードが悪いのだから。

「踏ん張りどころですわよ、旦那様」
可愛らしい主人を抱きしめながら、フェリシーはちょっとだけ黒い笑みを浮かべたのだった。