私はなお、樹のことをちゃんと見れなくて俯いたまま。
…だってこんなカッコ悪いところ、見られちゃったんだもん。
また迷惑と心配ばかりかけてしまう。
「ねえ私、柳果凛だけど覚えてる?」
我先にと樹に駆け寄る果凛。
「ああ、覚えてるよ。忘れるわけねぇじゃん」
「え、うれしい!」
その言葉に明るく微笑む果凛。
さっきとは別人のその態度に驚く。
「だって、俺のはなをいじめた主犯格だろ?」
掠れた低い声が響く。
…俺のはなって
さっきのきらきらスマイルとは打って変わって、果凛を見る目つきは殺気に満ちていた。
「え、」
「で、またいじめてんだ?」
「ちがっ、これはっ、」
咄嗟に否定する果凛を他所に、革靴の音を響かせながら私にゆっくりと近づいてくる樹。
ちらっと見上げると、目線が合って、
「はな、遅くなってごめん」
誰にも聞こえない小さな声で、まるでお姫様を迎えにきた王子様のように艶やかに微笑む。



