「綺咲!」
「え、はなちゃん…」
呼びかけに振り返って、波音にかき消されそうなほど弱々しく私の名前を呼ぶ綺咲。
「大した上着も着ないで凍え死んじゃうよ!」
自分の着ていたダウンを脱いで綺咲の肩にかけて、隣に腰掛ける。
身震いするくらい寒いけど、私はさっきまで暖かい車にいたし、ちょっとくらい大丈夫!
「ごめん、ありがとう」
「何があったの?」
言えないなら無理に言わなくていいけどさ、と付け足すと、綺咲はまだあどけない笑顔をこちらに向けて
「…私、いじめられてるんだ。なんか友達の彼氏が私のこと好きになったらしくって、男好きって」
まだ幼い目を潤ませながら、本当のことを話してくれた。
中学2年生で…彼氏…最近の子は…
「…そうなんだ」
「山川樹の妹で、ちょっと可愛いからって調子に乗ってるって言われて…」
もうなんか全部嫌になったんだ、って静かに涙を流しながら夜空を仰ぐ。



