「ん?」



首をこてっと傾けて、その唇は弧を描く。


いつも私を距離を取りたがるのにどうして?


ドキドキって胸が騒ぐ


「…こんな近づいたら移っちゃうよ?」



今、すごく近いよ?


手を伸ばせばキスできそうな距離。


大スターでただでさえ大忙しなのに、風邪なんて移すわけにいかないのに



「うん、移して」


甘く低くハスキーな声で、さらに迫ってくる。


ど、どうしちゃったのっ?


「ち、近いよっ…」


こんなの、いくら樹でも耐えられないよっ


その綺麗な顔に、焦点が合わなくなるくらい近くに迫った距離に息が止まる。



「ほら、移せよ」



「っ、」


そうやって見下して微笑む。


こんな樹、見たことない。



ど、どうしようっ。心臓が爆発しそう。


「ほら、早く」



「いっ、樹っ」



「ん?」


甘い声に意識が遠のく



「ドキドキしておかしくなるよっ」


パニックになる私をよそに、



「…ふっ、ちょっとからかっただけ。そんな顔すんなよ」


そう言って、余裕に笑って、一気に離れていく。


さっきの雰囲気は幻だったのかと思うほど、元通りの樹に戸惑う



「…じゃ、帰るから。お大事に」



「あ、うん、ありがとう…」



「おう。」



結局、こちらに顔を向けることは一度もなく、背を向けたまま出て行ってしまった。



…なんだったんだろう。



別の意味で熱があがっちゃうよ