不意に伸びてきた腕に、手繰り寄せられてすっぽり腕の中へ抱き止められてしまう。
「っ、ちょ、」
何これ!どうして、こんなことっ
ジタバタしてみるものの、敵わないほど強く抱きしめられる
こんなのっ、ドキドキしておかしくなるよっ
「ごめん…ずっと隠しててくれてたのに。矛盾したことしてるってわかってる。」
「樹…」
耳元で小さく呟かれる声に、言いたいことは何も言えなくなってしまう
「全部、全部分かってるから。」
こんなにも樹のことが分からないと思ったのは初めてだ
切なくて、辛くて、苦しそうな声も表情も、どうしてか分からない。
「な、なんでこんなことしたの?」
そう問いかけると、息を吸う音がして言葉を待つけれど、樹は何も言わなくて。
「…樹?」
「なんとなく」
私のことを抱きしめたままそう言った。
なんとなく今までの努力をむげにしたなんて思えないけど。
それに何かをぐっと飲み込んだような声色だった。
「…はなが俺に嫉妬なんてするわけないってことも、全部分かってるから」
「っ、」
向かい合って少し微笑む樹
消えてしまいそうな、今にも沈みそうな表情に何も言えずにただ見つめることしかできなかった
「じゃあな」
それだけ言って、車に乗り込み、何事もなかったかのように帰って行った。
樹の言葉と表情を思い出しては胸が締め付けられる。
…なんだったのか、何度考えても答えは出なかった。



