「あのさ、夜月ちゃん」

「……なに?」


 名前を呼ばれたので横を向くと、柊木くんと目が合った。


「名前で呼んで良い?」

「えっ?」


 そのとき、大きな音を立てて花火が舞い上がった。

 反射的に上を向く。


「あかり」

「……っ、はいっ」


 呼び捨てから入るなんて聞いてない!!

 叫びそうになるが、周りに人がいるのでやめておく。


「きれいだね」

「えっ、あ、の」

「花火」


 あ、流石に少女漫画的展開じゃなかったか。

 てっきり、私を綺麗だと言ってくれたのかと変に期待したので、落胆する。もちろん、勝手に期待した私が悪いんだけど。


「そう、だね」


 ずっと上に舞う花火。

 確かに、すごく綺麗だ。

 そして、その花火を見上げる、柊木くんの姿も。


「すごく、きれい」


 推しと好きは別だと、思っていたけど。


「だめかも」

「ん?」


 花火の音にかき消された、私の声。

 だけど、すぐ隣にいる柊木くんは、何か私がボソボソっと口にしたことは分かったようだ。


「なんでもない」


 推しと好きは別って、思ってたけど。

 いつか、彼に堕ちてしまいそうだ。