あの頃の隆二は、上の命令ならあたしを置いて、笑って死にに行く男だった。結ばれても、沈む泥船で海に漕ぎ出す未来しかなかった。

二十三年前の続きじゃないわ、ここからやっと始まるの。甘い男に心ゆくまで甘やかされる極上のオトナ時間が。

「あの子達に伝わればいいのに。今あたしがこんなに幸せで、今日までどれだけ幸せだったか」

隆二の胸に額をくっつける。

「隆二も思っていいわよ?オレは梓に逢うから生まれたんだ、って」

「思ってるよ、とっくに」

頭の上でひどく優しい囁きが聞こえた。

腕の中で温もりに身を委ねる。
干したての羽根布団にくるまれてるみたい。
ゆっくり瞼が下りてく。

「ありがとう」

隆二に。
みんなに。

最期に。

「笑って死ねる人生を・・・あたしにくれて」





FIN