新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

10時半頃、高橋さんから電話があって疲れていない旨を伝えると、12時過ぎに迎えに来てくれることになった。
大変だ!
急いでシャワーを浴びて、まだ何を着ていくか決めていなかったので、クローゼットの中を引っかき回して散々迷った挙げ句、コットンセーターにARIKIパンツに落ち着いた。しかし、この格好だと上に着るジャケットが違うぐらいで、会社に行く格好とさほど変わらないんじゃ……。
でも、1番しっくりきたからこれで行こう。バッグは、高橋さんに買って貰ったのにしよう。

土曜日ということもあって道路はかなり混んでいたが、高橋さんには悪いけれど、運転しない私にとっては目的地まで時間がかかった分、それだけ高橋さんと一緒に居られるので自分勝手な考えからするとお得な気分で嬉しかった。
今日のランチは、普段会社の帰りに食事に行く機会しかないので、せっかくだから昼間しか行かれない所に連れて行ってもらえることになった。
「で、何が食べたい?」
「えっ?」
てっきりお店は高橋さんが決めてくれるものだと思っていたので、いきなり聞かれて意表を突かれた。
何も、考えていなかった。
あっ。そうだ!
ここで、まゆみに伝授されたアレを……。
「あ、あの、私、この辺りのお店に詳しくないので、高橋さんのお薦めのお店があったらそこに連れていって頂けませんか?」
今だ。
意を決して、まゆみに教わったことを実行に移した。
「お薦めのお店か……」
そして、もう1回。
「そうだな。無国籍料……」
キャッ!
見られてる。
今、確かに高橋さんに見られた。
「お前……」
うわっ。
ど、どうしよう。
まゆみの言ったとおりの台詞を、高橋さんがぁ。