新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

「えっ? 何だ? チャンスって」
「な、何でしょう? チャンスって。ハハッ……私、何を言ってるんでしょうね。変ですね。あれ? おかしいな」
「お前。やっぱり疲れてる。壊れかけてるぞ。お子様は、もう早く寝た方がいい」
「もう!高橋さん。子供扱いしないで下さい」
「子牛が居る」
「高橋さん!」
高橋さんは、私の髪をクシャッとしながら、はにかんだように笑った。
またその笑顔が大好きで、キュンとしてしまう。
ヨシ!
高橋さんにも、まゆみの言うようにキュンとしてもらいたいもの。
絶対、明日はオーラを出しまくるんだから。
「おやすみ」
高橋さんは運転席に座ると、助手席の窓を開けて私の顔を覗き込むように見た。
「早く寝ろよ」
「はい。高橋さんも」
「フッ……ありがとう」
はにかんだように俯きながら笑うと、あっという間に高橋さんの車は走り去って行ってしまった。
明日は、まゆみに伝授してもらったことを実践してオーラを出しまくるんだから。
頑張らなくちゃ。
まゆみに教わったことを思い出しながら眠りに就いたらしく、翌朝、目が覚めると何だか肩が凝っていた。
寝ながら力が入っていたのかな。
でも、今週は私にしてはハードな仕事だったはずなのに、出勤日の朝に感じる体の怠さは不思議と感じられない。きっと高橋さんとランチに行かれるからその嬉しさの方が勝っているからだろう。
朝ご飯を軽く済ませてから、直ぐに洗濯をして掃除機をかけたりと普段こんなに機敏に休みの日は動かないはずなのに、今朝はそれも苦にはならない。