久しぶりに。心が落ち着いて眠れた気分で朝。目覚めると、いつもと部屋の景色が違っていることに気づき、昨日高橋さんの家に泊まったことを思い出した。
隣を見ると高橋さんの姿はもうなく、慌てて飛び起きた。
うわっ。
「痛っ……」
パジャマのズボンが、ずり落ちていることを知らずにベッドから降りたので、まるで 『殿中でござる』 のように裾を自分の足で踏みつけて床に見事に転がってしまった。
「どうした?」
ノックする音と、ほぼ同時にドアが開いた。転んだ拍子にもの凄い音がしたので心配して高橋さんが飛んできてしまった。
「今、物凄い音がしたが大丈……ブハッ! 何だ? その格好」
「キャーーッ! み、見ないでぇ」
慌てて、ずり落ちてしまっていたパジャマのズボンをたくし上げた。
い、今見られた?
高橋さんに、パンツ見られちゃった?
どうしよう……。
この場から逃げ出したかったが、恥ずかしくて床に尻餅を突いたまま動けずにいる。
「大丈夫か?」
でも、高橋さんは至って普通に接してくれている。
ということは……パンツ見られなかった? 
それとも、敢えて触れないでいてくれている?
「お、おはようございます。そんなに笑わないで下さい。結構、痛いんですから」
恥ずかしくて顔から火が出そうだったが、平静を装おうと必死に誤魔化すようにお尻をさすりながら高橋さんを見た。
「床が、好きなのか?」
はい?
高橋さんは、私の顔を覗き込むようにしゃがみながら自分の膝の前で両手を組んで悪戯っぽく笑った。
「ほ、ほっといて下さい」
「フッ……。ほら」
床に座り込んでいる私の両脇に高橋さんが手を入れて、ベッドに座らせてくれた。
チュッ。
「おはよう。早く着替えておいで。コーヒー入れたから」
う、嘘。
少しだけ腰を屈めて私の左頬にキスをすると、高橋さんは直ぐまた姿勢を戻して部屋から出て行ってしまった。
今、左頬にキスされた。
何気ない高橋さんの流れるような動作で、まったく予想できなかった。