新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

葬儀が終わって、ひと段落して実家から自分のマンションに帰って来たのはもう金曜日の夕方で、さすがに疲れが出て帰ってから何もせずにお風呂に入って寝てしまい、翌日、目が覚めたら既に10時を過ぎていた。
これからお墓を探したりお香典返しを送ったり、まだまだいろいろやることは残っていたが、四十九日になるまでに全部自分でやるからと言って母が聞かなかった。でも、その方が母の気も紛れるかもしれないという姉の考えもあったので、姉も実家に居るし取り敢えず母に任せることにした。
テレビをつけても観る気分になれずに直ぐ消してしまい、ボーッとしながら洗濯をして掃除機をかけ始めたが何だか気分が乗らず、掃除機を床に置いたままベッドに座ってそのまま横に倒れた。
父の葬儀の前後は殆ど眠れなかったし、その後も気が張っていたせいもあって疲れも眠さも感じなかったな。実家に居て気がつくとお線香をあげ、時折いろいろなことが思い出されて哀しみと寂しさの感情が大きなうねりとなって押し寄せてきて、知らぬ間に泣いてしまっていることもあった。
そんな今も涙が上から伝わってきて、ベッドカバーを濡らしている。グッと歯を食いしばり、肩と背中に力を入れて拳を握りしめて堪えているのに。
すべてのことが緊張の中にあって、心も体も休まらない。堪えようと思っても、堪えられない。何かで紛らわそうと思っても、紛らわせない。誤魔化せない。何も、やりたいことも楽しいことも考えられない。目を瞑ると、父と過ごした子供の頃の想い出が思い浮かんでくる。