新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

でも、高橋さんとの泣かない約束は告別式の時だけはやはり守れず、出棺の前に最期のお別れをする際、どうしてももう1度父に触れたくて泣きながら父の額にキスをした。
そして、火葬場での最期のお別れの時、とてもフレンドリーだった父のことを思い出し、母と姉と小さく手を振りながら見送ったが、この時は不思議ともう涙は出なくて自分でも驚くほど落ち着いていた。
そんな私とは対照的に、姉は気丈に振る舞いながら葬儀社の人との打ち合わせや母に代わって会葬の挨拶もこなし、一切を取り仕切ってくれていたので、そのことを火葬場で精進落としをしながら姉に謝ると、隣でガンガン泣かれたらこっちは泣くに泣けないわよと姉らしい応えが返って来て、役に立たなかった私を咎めることもなく直ぐにまた忙しく親戚の人達にお酌して回っていた。
小さな箱に納まってしまった父を見て、ふと寂しさと哀しさがこみあげたが、告別式に続き、初七日法要を終えて実家に戻った際、姉に渡されてその小さな箱を持った時、そのあまりの重さに驚いた。
小さくなってしまったけれど、今も父はその存在感を姿、形は変わっても尚、示している。そのことを実感したら、初めて冷静に父の死を受け入れられた。
『人が亡くなるというのは、とても大変なことなんだ』
高橋さんが言っていたことは、こういうことだったのかな?