新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

思いついたことが、口から勝手に出て来てしまう。今、こんなことを言わなくてもいいのに。現実を受け入れたくなくて、頭が混乱している。自分でも、分かっているはずなのに。
「だったら、尚更最期ぐらい……親父さんの最期ぐらい、ちゃんとしてやれ。それが、お前に出来る親孝行だ」
「親孝行……」
「そうだ。立派に、ちゃんと最期まで見送ってやれ。それが、娘としてのお前の勤めだ」
「高橋さん」
「俺も手伝うから。その後、思う存分泣けばいい。いいな？」
高橋さんの言葉を自分に言い聞かせるように、何度も何度も頷いた。
それから母と姉が戻ってきて高橋さんと挨拶を交わし、高橋さんはそこで葬儀の際の受付の手伝いを会社の人間で手伝ってくれる旨を母と姉に話して、母と姉もお言葉に甘えてそうさせて頂けると有り難いとお願いし、詳しい日程と場所が決まったら連絡することになった。
その後、会社規定で1週間の弔休を貰えるので、手続き等、仕事のことは何も心配しなくていいからと言ってくれて、高橋さんは帰って行った。
そして、翌日に通夜。翌々日に告別式と慌ただしく父の葬儀が執り行われたが、まだ父は現役のサラリーマンだったこともあって弔問に来て下さる方も多く、高橋さんや中原さん、まゆみをはじめ、経理と総務の人達がお手伝いに来てくれて本当に助かった。
特に高橋さんとまゆみは、お通夜の日も早くから来てくれて受付のお香典の取り纏めについて母に要望を聞いて色々配慮してくれていた。中原さんもお通夜の日は定時で仕事を切り上げて直ぐすぐ駆けつけてくれたし、告別式もこんな時だからと部長に断って会計はお昼過ぎまで空っぽだったらしい。
高橋さんは、母や姉の要望を踏まえて段取りを全部決め、後々分かりやすいようにとお香典袋と会葬者名簿それぞれに同じ番号を振ってくれていたので、式が終わった後で分かったことだが母はお香典返しの時にとても助かると言っていた。