姉が私の腕を掴むと、ベッドからさほど遠くない壁際へと移動した。
「お姉ちゃん。私、お父さんの傍に居たいんだけど」
「いい? 今から言うことをよく聞いてよ」
姉が私の両手を握って、真剣な眼差しで見た。
な、何?
「厳しい言い方だけど……。医者の話だと、多分……もうお父さんは助からない」
嘘。
「嘘でしょう? 嘘……だよね」
聞いた瞬間、ボロッと涙が溢れた。
「お母さんは望みを捨てていないみたいだけど、きっともう助からない」
「そんなの嫌……嫌だよ。お父さんが……そんな……」
淡々とした姉の口調。そして聞きたくなかった言葉。
「だから、私と陽子がしっかりしないと駄目なの! お母さんは、お父さんの傍に付いているだけで精一杯なんだからね」
お姉ちゃん……お母さん……。
ベッドサイドに立って居る母を見ると、必死に父の手を握って呼びかけていた。
「お母さん」
気が動転して何も考えられない私の両手を、姉が握っている手に力を込めた
「もしもの時の、覚悟はしておいて」
そうは言われても、目を瞑って首を左右に振るだけしか出来ない。
そんなの……覚悟なんかしたくない。覚悟なんか……。
そんな私の背中を、姉はそっとさすってくれた。
「私と陽子が頑張らなきゃ、お父さんが心配するでしょう?」
4つ違いの姉は、教師をしていてそれなりの立場の人間だし、姉妹でも私と違って本当にしっかりしている。
言われてゆっくり目を開けて姉の顔を見ると、姉の目からも涙が滲んでいた。
「お姉ちゃん」
きっと、姉も辛いんだ。私だけが、辛いんじゃない。みんな……辛いんだ。
でも父のことで姉の涙を見たのは、この時だけだった気がする。
父が小康状態になって、今夜は病院で一晩過ごすことになったが、ずっと病室にも居られないので待合室で待つことになり、ベッドから離れて入り口に向かおうとしたその時だった。
「先生!」
いきなり看護師の1人が大声を出したので、驚いて振り返るとアラームが鳴って赤いランプが点滅しだし、医師と看護師が再び父の周りを取り囲んだ。
「矢島さん!」
医師に呼び止められて、慌ててベッドの傍に駆け寄った。
「お姉ちゃん。私、お父さんの傍に居たいんだけど」
「いい? 今から言うことをよく聞いてよ」
姉が私の両手を握って、真剣な眼差しで見た。
な、何?
「厳しい言い方だけど……。医者の話だと、多分……もうお父さんは助からない」
嘘。
「嘘でしょう? 嘘……だよね」
聞いた瞬間、ボロッと涙が溢れた。
「お母さんは望みを捨てていないみたいだけど、きっともう助からない」
「そんなの嫌……嫌だよ。お父さんが……そんな……」
淡々とした姉の口調。そして聞きたくなかった言葉。
「だから、私と陽子がしっかりしないと駄目なの! お母さんは、お父さんの傍に付いているだけで精一杯なんだからね」
お姉ちゃん……お母さん……。
ベッドサイドに立って居る母を見ると、必死に父の手を握って呼びかけていた。
「お母さん」
気が動転して何も考えられない私の両手を、姉が握っている手に力を込めた
「もしもの時の、覚悟はしておいて」
そうは言われても、目を瞑って首を左右に振るだけしか出来ない。
そんなの……覚悟なんかしたくない。覚悟なんか……。
そんな私の背中を、姉はそっとさすってくれた。
「私と陽子が頑張らなきゃ、お父さんが心配するでしょう?」
4つ違いの姉は、教師をしていてそれなりの立場の人間だし、姉妹でも私と違って本当にしっかりしている。
言われてゆっくり目を開けて姉の顔を見ると、姉の目からも涙が滲んでいた。
「お姉ちゃん」
きっと、姉も辛いんだ。私だけが、辛いんじゃない。みんな……辛いんだ。
でも父のことで姉の涙を見たのは、この時だけだった気がする。
父が小康状態になって、今夜は病院で一晩過ごすことになったが、ずっと病室にも居られないので待合室で待つことになり、ベッドから離れて入り口に向かおうとしたその時だった。
「先生!」
いきなり看護師の1人が大声を出したので、驚いて振り返るとアラームが鳴って赤いランプが点滅しだし、医師と看護師が再び父の周りを取り囲んだ。
「矢島さん!」
医師に呼び止められて、慌ててベッドの傍に駆け寄った。

