新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

「もしもし、陽子？　今、何処に居るの？」
「何処って……ちょっと、出掛けているけど」
「大変なの。お父さんが危篤なの！」
「えっ？」
「直ぐ、病院に来て」
「お、お母さん。嘘でしょう？　お父さんが危篤って、何？　な、何で？　お父さん。どうしたの？　どうしちゃったの？」
何が何だか分からず、電話越しに母に問い掛けた。
「いいから、早く来て！」
「も、もしもし！　もしもし、お母さん。何処の病院？」
「あっ。東都病院。東都病院よ」
「分かった。直ぐ行く」
気が動転していて、母も病院名を言わずに電話を切ろうとしたので、慌てて病院名を聞き出した。
何？　どういうこと？
お父さんが危篤って……何で？　どうして？
電話を切って高橋さんを見ると、気づかないうちにいつの間にか車を路肩に停めて心配そうに私を見ていた。
「父が……」
高橋さんの顔を見た途端、どっと涙が溢れてきてしまった。
「東都病院？」
エッ……。
高橋さんが静かにそう言うと、私の右肩にそっと左手を置いた。