「先日、会議の前に仰ってましたよね? これから、俺は道化師に成り切るって。あれは、どういう意味だったのですか?」
「そんなこと、言ったか?」
高橋さん。
「会議で集中砲火を浴びても、罵声を浴びせられても、怒鳴られても屈しないためだったのですか? だから、道化師に成り切るって言われたのですか?」
「……」
あっ……。
「す、すみません。申しわけありません。出過ぎたことを私……ごめんなさい。失礼し……」
「待て」
うわっ。
改札口に向かおうとして、高橋さんに腕を掴まれた。
「あの……」
「……」
「高橋さん……」
「こっち」
フーッと息を吐き出した高橋さんが、人の往来の邪魔にならない所まで私の腕を掴んで移動した。
「俺が何時、怒鳴られていたんだ?」
「えっ? 先日の会議の中で、その……」
「そうだったか? 俺は、そうは捉えていなかったが」
嘘。
確かにあの会議の中で、高橋さんは罵声を浴びたり怒鳴られていたりした。少なくとも私はそう感じたし、柏木さんだってそう感じていたはず。
「でも……」
「前にも言ったかもしれないが、仕事に右顧左眄して他人の顔色を窺ってばかりいては、何も先には進めない。仕事を円滑に、そして実のあるものにする為には、時に己は捨てなければならない時もある」
「己を捨てる……ですか?」
「ああ。我を持たないとでもいうのかな。ある意味、自分を出してしまっては纏まるものも纏まらない時もある。無論、自分の意見や意思は大切だと思う。しかし、自分の意見や意思と我を通すこととは別物で、自分の意思を通したいばかりに、固執してはいけないというもの。他人の意見に耳を傾け尊重しつつ、自分の意思も示す。それが出来れば何も困ることはないが、これが案外難しい。感情で、どうしても左右してしまうことがあるからな」
高橋さんは、そこまで考えているんだ。とても私には、まだまだ無理なレベル。
「心配してくれて、ありがとう」
エッ……。
「嬉しかった」
「高橋さん」
「そんなこと、言ったか?」
高橋さん。
「会議で集中砲火を浴びても、罵声を浴びせられても、怒鳴られても屈しないためだったのですか? だから、道化師に成り切るって言われたのですか?」
「……」
あっ……。
「す、すみません。申しわけありません。出過ぎたことを私……ごめんなさい。失礼し……」
「待て」
うわっ。
改札口に向かおうとして、高橋さんに腕を掴まれた。
「あの……」
「……」
「高橋さん……」
「こっち」
フーッと息を吐き出した高橋さんが、人の往来の邪魔にならない所まで私の腕を掴んで移動した。
「俺が何時、怒鳴られていたんだ?」
「えっ? 先日の会議の中で、その……」
「そうだったか? 俺は、そうは捉えていなかったが」
嘘。
確かにあの会議の中で、高橋さんは罵声を浴びたり怒鳴られていたりした。少なくとも私はそう感じたし、柏木さんだってそう感じていたはず。
「でも……」
「前にも言ったかもしれないが、仕事に右顧左眄して他人の顔色を窺ってばかりいては、何も先には進めない。仕事を円滑に、そして実のあるものにする為には、時に己は捨てなければならない時もある」
「己を捨てる……ですか?」
「ああ。我を持たないとでもいうのかな。ある意味、自分を出してしまっては纏まるものも纏まらない時もある。無論、自分の意見や意思は大切だと思う。しかし、自分の意見や意思と我を通すこととは別物で、自分の意思を通したいばかりに、固執してはいけないというもの。他人の意見に耳を傾け尊重しつつ、自分の意思も示す。それが出来れば何も困ることはないが、これが案外難しい。感情で、どうしても左右してしまうことがあるからな」
高橋さんは、そこまで考えているんだ。とても私には、まだまだ無理なレベル。
「心配してくれて、ありがとう」
エッ……。
「嬉しかった」
「高橋さん」

