マンションの入り口のところに植わっていた桜の樹から、満開になった桜の花びらが風ではらはらと舞い落ちてきて、偶々差し出した手のひらの上に花びらが1片のった。
「明日は雨らしいから、桜も散っちゃうな」
「そうなんです……か。何だか、寂しいですね」
「……」
桜が咲き始めると、必ずといっていいほど花散らしの雨が降る。せっかく、こんなに綺麗に咲いているのに。
「この桜が散ると、今度は八重桜が咲くな」
「そうでした。八重桜も綺麗ですよね。桜って、やっぱりいいですよね。何か、桜が咲くと春が来たって気がして」
「フッ……。俺はまた、桜餅が食べられるからいいのかと思った」
ハッ?
「高橋さん!」
「おっと」
「もう。せっかく綺麗なお花の話をしているのに」
「出た。春の牛」
高橋さんの腕を軽く叩こうとして、既の所でかわされてしまった。
「牛じゃ、ありません」
「そうか。子牛だったな」
「違います。あっ! ちょっと、高橋さん。待って下さい」
うわっ。
「痛っ……」
急に走り出した高橋さんを慌てて追い掛けていると、高橋さんが急に立ち止まったので、背中に額が当たってしまった。
「す、すみません。高橋さん。どうしたんですか?」
立ち止まった高橋さんが、上を見上げている。
「ハナミズキ」
エッ……。
高橋さんが指さした方を見ると、白いハナミズキが咲きだしていた。
「まだ、これからだな」
「そうですね」
白いハナミズキは咲き出したばかりで、まだ2分咲きといったところだった。
「ハナミズキは、元々アメリカの花なんだよな」
「そうなんですか?」
「ああ。ハナミズキは、別名アメリカヤマボウシといって、日本のヤマボウシと似ているからそう名付けられている。元々は、アメリカから来たんだ。その昔、日本からワシントンD.Cにソメイヨシノが送られて、そのお返しにハナミズキがアメリカから届いた。それから、日本でも増えて街路樹等に植えられるようになったんだ。だから、桜とハナミズキはとても縁が深い」
「そうだったんですか。知らなかったです」
「やっぱり、花より団子か」
花より団子……はい?
「高橋さん!」
そんな会話をしながら歩いていると、あっという間に駅についてしまった。
「送って下さって、ありがとうございました」
お辞儀をすると、高橋さんは黙って微笑んでくれた。
この優しい微笑みの奥には、会議で闘っている高橋さんが居る。知らなければ気づかない。否、気づけない。この優しい微笑みの向こうには……。
「高橋さん」
「ん?」
「明日は雨らしいから、桜も散っちゃうな」
「そうなんです……か。何だか、寂しいですね」
「……」
桜が咲き始めると、必ずといっていいほど花散らしの雨が降る。せっかく、こんなに綺麗に咲いているのに。
「この桜が散ると、今度は八重桜が咲くな」
「そうでした。八重桜も綺麗ですよね。桜って、やっぱりいいですよね。何か、桜が咲くと春が来たって気がして」
「フッ……。俺はまた、桜餅が食べられるからいいのかと思った」
ハッ?
「高橋さん!」
「おっと」
「もう。せっかく綺麗なお花の話をしているのに」
「出た。春の牛」
高橋さんの腕を軽く叩こうとして、既の所でかわされてしまった。
「牛じゃ、ありません」
「そうか。子牛だったな」
「違います。あっ! ちょっと、高橋さん。待って下さい」
うわっ。
「痛っ……」
急に走り出した高橋さんを慌てて追い掛けていると、高橋さんが急に立ち止まったので、背中に額が当たってしまった。
「す、すみません。高橋さん。どうしたんですか?」
立ち止まった高橋さんが、上を見上げている。
「ハナミズキ」
エッ……。
高橋さんが指さした方を見ると、白いハナミズキが咲きだしていた。
「まだ、これからだな」
「そうですね」
白いハナミズキは咲き出したばかりで、まだ2分咲きといったところだった。
「ハナミズキは、元々アメリカの花なんだよな」
「そうなんですか?」
「ああ。ハナミズキは、別名アメリカヤマボウシといって、日本のヤマボウシと似ているからそう名付けられている。元々は、アメリカから来たんだ。その昔、日本からワシントンD.Cにソメイヨシノが送られて、そのお返しにハナミズキがアメリカから届いた。それから、日本でも増えて街路樹等に植えられるようになったんだ。だから、桜とハナミズキはとても縁が深い」
「そうだったんですか。知らなかったです」
「やっぱり、花より団子か」
花より団子……はい?
「高橋さん!」
そんな会話をしながら歩いていると、あっという間に駅についてしまった。
「送って下さって、ありがとうございました」
お辞儀をすると、高橋さんは黙って微笑んでくれた。
この優しい微笑みの奥には、会議で闘っている高橋さんが居る。知らなければ気づかない。否、気づけない。この優しい微笑みの向こうには……。
「高橋さん」
「ん?」

