新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

もう、心臓がドキドキして破裂しそう。シャワーを浴びた高橋さんのサラサラとした髪から、シャンプーに香りがする。
見に行きたい。綺麗な星空。澄んだ夜空に広がる、満天の星。
しかし、近すぎる高橋さんに緊張のあまり声が出ず、何度もただ頷いてしまった。
「フッ……。何だ? そのあかべこみたいな首の振り方は」
あかべこって……高橋さん。それは、あんまりなんじゃ?
「何ですか。あかべこって、それ……」
あれ?
思い切って抗議をしようとしたが、振り返ると高橋さんは食器棚の方を向いていて背中だけが見えた。
「あかべこが、どうしたって?」
エッ……。
振り返ると、明良さんがカウンター越しにキッチンを覗き込んでいた。
「ふわぁ。よく寝たな-。何やってるの? 仲良くお片付け? お邪魔だった?」
明良さんは伸びをすると、カウンターに頬杖をついた。
「……」
「ち、違います。明良さん」
「違わない」
「ええっ?」
高橋さん。何をいきなり。
「やっぱり、邪魔だったかぁ」
「片付けてることには、変わりない。つべこべ言わずに手伝え。テーブルの上のもの、持って来いよ」
「はい、はい」
「はいは、1回」
「はい、ほい。これなら、いいんでしょう?」
「……」
高橋さんと明良さんには、ついていかれない。どこまで本気なんだか、本音なんだかよく分からない。

片付けも終わってお茶も飲み終わり、明良さんと仁さんはまだ高橋さんの家に居るようだったので、まだ外も明るいし駅までゆっくり歩いて電車で帰ることにした。
「ご馳走様でした。とっても美味しかったです」
「良かった。陽子ちゃん、また、一緒に料理作ろうね」
「はい。明良さん。また色々教えて下さい」
「勿論」
「気をつけて」
「はい。仁さんも、また。お仕事頑張って下さいね」
「ありがとう」
「お邪魔しました」