新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

すると、高橋さんは黙って私の手から布巾を取ると、お皿を拭きだした。
「あ、あの、やりますから向こうでゆっくりしてて下さい」
「……」
「高橋さん……」
何も言ってくれない高橋さんは、何だか怒っているような気がする。もしかしたら片付けのやり方とか、食器の拭き方とかがあったのかもしれない。
「すみません。勝手にキッチンで片付けを始めてしまって。食器の拭き方、間違っていましたか?」
「フッ……。そんなものはない」
「そうなんですか! あっ」
思わず、少し大きな声を出してしまい、慌てて両手で口を押さえた。
でも良かった。それを聞いて、ホッとした。
「それより、今にも皿を落として怪我しそうで危なっかしくて落ち着かない」
「ヒッ……」
ホッとしていたのも束の間、そう言うといきなり今度は高橋さんが口を押さえたままだった私の両手首を掴むと耳元で囁いた。
「休みの日まで部下の子守は、ご・め・ん・だ」
「高……ウグウグ……」
抗議の声を上げようとしたが、高橋さんが後ろから掴んでいた両手首に力を入れたので思うように声を出せない。
「もう4月になるから、真冬のような澄んだ夜空の綺麗な星空も見られなくなる。予定が無ければ、来週末ラスト見に行くか?」
エッ……。
綺麗な星空?
耳元で囁かれた言葉に反応して上を見ると、間近で高橋さんと目が合った。
うわっ。
ち、近いです。近過ぎですって、高橋さん。
「ん?」
わわっ。
高橋さん。こんな近くで、顔を覗き込まないで。
恥ずかしい。
「どうなんだ?」