新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

インスタントのオニオンコンソメスープの粉末を使っているとは、とても思えない。この絶妙なオニオンコンソメの味と鶏肉の混ざり具合がいい。
「良かった。陽子ちゃんに気に入ってもらえて。こっちの2人、特にサウスポーの方は家畜並みに食べるから、味わうどころかあっという間になくなっちゃうんだ。陽子ちゃんが居てくれると、それなりに遠慮するみたいだけど……っていうのは、甘かったみたいだね」
「えっ?」
見ると、明良さんと話している間に、もう唐揚げが殆どなくなっていた。
「ああ! 貴博。何だよ、その小皿に唐揚げ3個は」
「ん? キープ」
はい?
「キープって、お前。子供じゃないんだから」
「幼稚園児。少しは静かに食べることに集中しろ」
「幼稚園児、幼稚園児って煩いよ」
そんな高橋さんと明良さんの掛け合いを横で静かに見ながら仁さんが、高橋さんの唐揚げをこっそり横取りしようとしてお箸を伸ばすと、すかさず高橋さんに見つかりピシッと叩かれていた。
何だか高橋さんを見ていると、とても普段のあの仕事ぶりからは想像も出来ない。あんなに会議の時には集中して隙すら見せないのに。今は、もう隙だらけで……。
美味しいお料理も、もう殆どなくなってしまい、ビールからグレープフルーツサワーに切り替えて飲んでいた高橋さん達は、3人ともそのうち眠ってしまった。きっと、みんな日頃仕事で疲れているんだと思う。ゆっくり眠って欲しいな。
今のうちに、空いたお皿を片付けよう。
そう思って静かに空いたお皿をキッチンに運び、シンクに置いて洗い物を始めた。
美味しかったな。唐揚げも大根と塩昆布の蒸し物も。
お皿を洗い終えて静かに布巾で拭いていると、後ろからいきなり両肩を掴まれた。
だ、誰?
「休みの日ぐらい、人に気を遣わないでゆっくりしてろ。片付けは、後でみんなでやればいい」
その声と同時に、両肩を掴んでいた手を離してくれたので驚いて振り返ると、高橋さんが立っていた。
「あ、ああ、あの、起こしちゃいましたか? すみません」
「……」