新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

「ま、いいか。 元々、ほんの少ししか、かけないし」
「あっ。 お醤油、少しだったら私持ってますよ」
えっ? というような顔をして、高橋さんが私を見た。
「ちょっと、お餅を見ててもらえますか? 今、持ってきますから」
そう断ってから部屋に戻り、バッグの中から小さな醤油の容器を持ってキッチンへと戻った。
「これで、足りますか?」
差し出した小さな醤油の容器を見て、高橋さんは思いも寄らなかったらしく、こちらをジッと見ていた。
「お前、機内食についていたのを持って来たのかよ」
「文句言わないで下さいよね。 持ってきたからこそ、役に立ったじゃないですかぁ」
「フッ……。 そうだな」
「そうですよ」
私にしては、よくお醤油を持って来たなと思い、かなり嬉しかった。
「うん。 美味い! ほら、あーん……」
エッ……。
いきなり目の前にお餅を見せられて、咄嗟に言われるまま口を開けてしまった。
高橋さんが出来上がったばかりの丸餅に、味付けをしたホタテをトッピングして自分で少し味見をすると、私の口に入れてくれた。
「あっ。 美味しい、これ!」
思わずピースサインをしながら高橋さんの顔を見ると、高橋さんも微笑んでくれている。
何だか、まるで結婚しているみたいな錯覚に陥りそうだ。
出張中の辛かったことなんて嘘のように、日だまりのような暖かい空気を肌で感じられて、嬉しくて仕方がない。
しかし、そんなぬくもりの世界から引き戻されるように、ヌーッと、いきなり横から高橋さんの顔が出てきた。
「うわっ。 な、何ですか? 急に、びっくりするじゃないですか」
「何ですか? じゃねぇよ。 何だ? そのニヤケた顔は?」
うっ。
すっかり妄想の世界に入ってしまっていたので、きっと思いっきり顔がニヤケMAXになっていたかもしれない。 そこを、高橋さんに見られてしまったんだ。
「そ、そんなことないですよ」
「まぁた、何かエロいこととか、考えてたんじゃねぇのぉ?」
高橋さんはわざとらしくそう言うと、私の顔を凝視した。
「な、何、言ってるんですか! からかわないで下さい」
「ハハッ……。 お前、顔真っ赤」
嘘っ。
思わず、両頬に手を当てた。