新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

エッ……。
な、何?
私、何か変なこと言っちゃった?
「陽子ちゃぁん。 よぉくその胸に手をあてて、思い出してみましょう」
「えっ?」
高橋さんが、さも私に何か問題があるような時は、思いっきり口角を持ち上げて見るんだよね。
今、まさにその状況で……って、何?
「その頃、ちょうど誰かさんは俺のメールは無視するし? もう俺のことが分からなくなっちゃったぁだとか、言ってくれちゃってた時期でしたからねぇ……」
うわっ。
あ、あの時、そうだったっけ?
「そ、そうでしたっけ?」
「ええ。 お陰様で、僕チンは思いっきり信用されてませんでしたからねぇ。 ハハッ……」
「い、いったぁい」
高橋さんは、まるでやんちゃ坊主のように傾けた首に反動を少しつけて、私に頭突きをした。
「タイムラグ、おしおきぃ」
はい?
僕チンとか、な、何なの?
まったく……。
高橋さんは、いったい何歳なの?
偶に、分からなくなってしまう。
涙目で頭突きをされたところを手でさすりながら、高橋さんを睨んでいた。
「これをちょっとフライパンで焼いて、上にトッピングして食べると美味いんだ」
「お餅をですかぁ?」
お餅にトッピングって……美味しいの?
何だか、想像し難い感じで半信半疑だった。
「そう。 今日は、丸餅だから平らな方を上にして少しだけバターを塗って弱火で……えーっと、火加減は数字3ぐらいでいいかな。 焼いてくれる?」
「はい」
電磁調理器は炎が見えないので、何だか緊張する。日頃、使い慣れていないせいか、火加減が今ひとつ掴めない。 数字の大きさで調整するのは、どうも難しいな。 高橋さんは、こちらに住んでいて慣れているからか、まったく戸惑う素振りもないけれど。
言われた通りフライパンで丸餅を焼いていると、隣で高橋さんが冷蔵庫から出したものを広げてお皿を用意してその上にのせていた。
「そうだ。 お前の好きなデザートも、買ってきてやったぞ」
「えっ? 本当ですか? 嬉しい。 何だろう……何かなぁ」
気になって、冷蔵庫の方に歩みかけた。
ひゃっ!
だが、高橋さんに腕を掴まれ引き戻されてしまった。
「あぁとぉでぇ。 先に、飯だろ?」
「はぁい……」
渋々、またフライパンの前に立ってお餅の焼き加減に集中した。
「しまった! 醤油がなかった」
高橋さんが冷蔵庫の扉を開けて、中に向かって叫んでいる。