新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

真冬のニューヨークだけあってホテルに帰って来ると、流石にいくら高橋さんと一緒だから寒くないと思えても、体は冷え切ってしまっていた。
そのため、お互い食事より先にシャワーを浴びようということになり、少し熱めのシャワーを浴びるため服を脱ぎながら時計を外した。
嬉しさのあまり、外した時計を握りしめて目を瞑る。
あれ?
でも、ちょっと待って……。
直ぐに目を開けて、文字盤を見た。
高橋さんから貰ったこの時計、どこのブランドのものなんだろう?
12時のところに刻まれているアルファベットの文字を目を凝らして見る。
P……何、これ。
何て、読むの?
確か、ショップに入って行く時にもテンパードアにも同じ文字があった。
せっかく貰ったのに、ブランド名も読めなければ、価値も分からない。
あとで、高橋さんに教えてもらわないと……。
これから、どんな未来が待っているのかな?
想像してみようと思っただけで、楽しくなってつい顔が綻ぶ。 それと同時に、漠然とだがこれから先に何が起きるのか想像出来ないことも事実なので、いろいろなことを考えていると、真顔に戻ってしまった。
期待と不安は、表裏一体。 戻れないのが人生……。 そんな、言葉が頭に浮かんでいた。

シャワーを浴びて体が温まったところでリビングに向かうと、ガサガサという物音と共に高橋さんの声が聞こえた。
「うわっ!」
今の声……。 
リビングでもない、キッチンでもない。 高橋さん部屋から、聞こえた気がする。
慌てて高橋さんの部屋に向かうと、床に散乱した何やら白い飴のような大きいものが目に飛び込んできた。
「高橋さん! どうしたんですか?」
「やっちった……」
まるで、子供みたいに悪戯っぽい笑みを浮かべ、高橋さんが床に散乱した物を拾い出したので、慌てて一緒に手伝った。
「何ですか? これ」
「えっ? 見ての通りの、もちもちっとした丸餅ちゃん」
「はぁ?」
丸餅……。
白い飴のような大きいものの正体は丸餅で、破けた袋から散乱してしまった丸餅の最後の1個を拾い終えると、高橋さんの後に続いてキッチンへと向かった。
「それがさ、イトウのご飯を買いに行ったら棚にあまり残ってなくて、仕方ないからその残りを全部と取り敢えず隣にあった丸餅も買って持って来てたわけ。 でも、すっかり買ったことも忘れてて、さっき思い出してバゲージの中を探してたら、やっぱり持ってきてたんだ。 このまままた持って帰るのもあれだし、せっかくあるのにもったいないジャン?」
高橋さんから、生活感のある言葉が聞けるとは……。
何だか普段の仕事中の姿からは想像出来なくて、そんな高橋さんが少し身近に感じられて嬉しかった。
「そうだったんですか。でも、それだったら言って下さればイトウのご飯を私も買ってきたのに」
すると、高橋さんが首を傾げて横目でこちらを見た。