新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

身長差があるので、胸に飛び込んでも高橋さんの顔には私の頭は当たらないから、躊躇うことなくギュッと高橋さんの胸に顔を埋めた。
「ん? どうした?」
そんなに優しい声で、聞かないで。
先ほどからの負の堂々巡りで、頭の中から不安な気持ちが溢れてきて泣きそうだった。
「ちょ、ちょっと、待て。 頼むから、先に荷物だけ置かせてくれ」
エッ……。
見ると、私がしがみついているので、高橋さんは荷物を持ったまま両手を広げていた。
「あっ! ご、ごめんなさい」
慌てて離れると、高橋さんは荷物をそのままテーブルの上に置いて、脱いだコートを椅子の背もたれに掛けると、ドアの前に立ったままの私の前に来た。
「どうした?」
高橋さんが、腕を組みながら私の視線に合わせてくれるように少し上半身を屈めた。
「私……私……ごめんな……さい」
堰を切ったように泣き出すと、高橋さんがそっと抱きしめてくれた。
そして、私の背中をギュッと抱え込むとそのままの体勢でソファーまで行き、私を座らせて隣に一緒に座った。
「時計……。 あの時計……返しちゃったんですか?」
「ん?」
「ヒクッ……。 返しちゃった……返しちゃったんですか? ヒクッ……返しちゃったの? 高橋さん」
両手で顔を覆って、泣いてしまった。
「はぁ……」
高橋さんの深呼吸とも溜息ともとれる声に、覆っていた両手をそっと外して高橋さんの顔を見た途端、鼻水がズリッと吹き出した。
嫌だ。 
どうしよう。 恥ずかしい。
「ブハッ! お前……」
高橋さんが立ち上がって自分の部屋まで行くと、ティッシュの箱を持って戻って来た。
「ほら、チーンして」