新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

「なるほどねぇ。熱く語ってるところを見ると、今やってる仕事は、料理関係?」
「鋭いねぇ。まあ、そんなところ。ところで、そのオニオンコンソメスープなんて何に使うんだ?」
「陽子ちゃん。ごめんね。外野が煩くて。さっきの塩昆布の適当っていうのは……そうだな。塩昆布は、20gぐらいでお願い」
「あっ。20gですね。ありがとうございます。後で、メモしなくちゃ」
「そのスープの素を1袋全部、このビニール袋の中に入れてくれるかな」
「はい」
明良さんに言われたとおり、鶏もも肉が入ったビニール袋に、所謂お湯を注ぐだけのインスタントのオニオンコンソメスープ1袋を入れた。
すると、明良さんはそこにたまご1個を入れて袋ごと揉むと、そのままそこに置いた。
「明良さん。これは、どうするんですか?」
「少し放置しておいて、それからまた使うよ。それまで、他のものを作っちゃおう」
「はい」
明良さんは、それからあっという間にサラダを作り、その上、お豆腐を焼いて、たらことゴマを振って器に盛りつけた。
私は……というと、お豆腐とトマトを切ったぐらい。
いい匂い。
お豆腐を焼いた、ゴマ油のいい匂いが漂って食欲をそそる。
「それより、仁。カトラリーのセッティングは、OK?」
「任せろ」
「それより金勘定屋の姿が見えないが、何処に行ったんだ?」
「貴博なら、シャワー浴びてるよ」
「何だ、それ? 何も手伝わないで、何考えてんだ?」
「いや、違う。明……」
「一端なこと言っておきながら、何様なんだっつーの」
ハッ!
仁さんが、カウンターキッチン越しに明良さんに黙ってジェスチャーをしている。
明良さんは、下を向いて先ほど放置しておいたビニール袋の中に、小麦粉と片栗粉をまぶしているのでそれに気づいていない。
「あ、あの……」
「陽子ちゃん。これから揚げるよー。まったく、貴博はどうしようもないね。金勘定しか出来ねーんだから。みんな腹減ってるから、必死になって用意してるっていうのに。本当に、何様なんだ?」
見ると、仁さんが頭を抱えている。
エッ……。
同時に、何だか痛いぐらいの視線を感じて恐る恐るキッチンの入り口の方を見ると、高橋さんが立っていた。
「地獄の沙汰も金次第」
ヒッ!
元々、低い声を更に低くした高橋さんの声が聞こえると、一瞬、明良さんの手が止まった。
「で、出たな。金勘定屋だけに、大魔王か」
はい?
「……」