新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

「何も出来ないから……その見返りに、体を提供するみたいで……だから嫌なんです。 ヒクッ……」
そこまで言うのが精一杯で、そのまま高橋さんを置いて急いで自分の部屋に入り、ドアに鍵を掛けるとベッドに思いっきりダイブした。
無性に悲しくて、情けなくて、綺麗にベッドメイキングされたベッドカバーの上から枕に顔を押し当て声を殺して泣いていた。
泣き続けていると、鼻が詰まってどうしようもなくなってきて、重い体を起こしてティッシュで鼻をかみ、足元のゴミ箱にティッシュを捨てながらふと手が止まった。
あんな酷いことを高橋さんに言ってしまったけど、高橋さんはどうしているのかな?
だいぶ気持ちが落ち着いてきて、今朝からの出来事を思い出していた。
高橋さんの腕の中で目が覚めて、思いっきり尻餅を突いて胸を見られちゃって、もの凄く恥ずかしくて……。 今、考えただけでもドキドキしてしまう。
それから、美味しいランチを食べに連れていってもらって、時計のショップでキャサリンさんに会ってしまったことで、私が勘違いをして駄々をこねて高橋さんを困らせて……。
でも、それは私の性格をよく知っている高橋さんが、キャサリンさんと待ち合わせをしていたことを敢えて何も言わずにいてくれたから。
すべて、私のことを考えてくれていたから……。
ハッ!
高橋さんは、今日は時間のロスをしたくないって言ってた。
ニューヨーク、最後の日だから……。
だから、キャサリンさんとの待ち合わせをあの時計屋さんにしたのも、全部そのためだったの?
もしかして……。
きっと、そうだ。
私のことを考えてくれている高橋さんは、いつもそうやって何も言わずに見えない優しさを醸し出している。