新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

いきなり私の右腕を上に挙げて、まるで勝者のようなポーズをとらされたので、首を真横に傾けながら、わざと少し怪訝そうな顔をして高橋さんを見上げた。
「なぁんか、さっき吹き出して笑ってなかったか?」
逆に、怪しいと言わんばかりの表情で、横目で見降ろされてしまった。
うわっ。
「い、いえ……。 そ、そんなことないですよ。 さ、さあ! 用意して食べま……」
嘘っ……。
高橋さんが、私の後ろに向かって 「どうぞ!」 の仕草をしたので、話しながら振り返ると、もう殆ど朝食は出来上がっていた。
ハムエッグにサラダ、ヨーグルトとフルーツが綺麗に盛りつけされていて、後はテーブルに運ぶだけになっている。
「ご飯を電子レンジで、温めてくれるか? 今、お湯が沸くから、味噌汁も出来る」
「すみません……。 何から何まで、やって頂いちゃって……」
自己嫌悪というか、いつものことなのだが、要領の悪い私は本当に後手、後手で情けない。
「ほら。 はぁやぁくぅ」
高橋さんは、微笑みながら催促の十八番を言っている。
「あっ! は、はい」
急いでご飯を電子レンジで温めて、少し遅めの朝食を取った後、今からやっておけば、この後、落ち着いて過ごせるということで、荷物整理を先にしようということになった。
自分の部屋で片付けながら、必要な物以外はすべてバゲージに詰めているが……。
はぁ……。 
何度やっても、全部入らない。
バゲージが、閉まらない。
パンパンに浮いてしまっている部分をガムテープで止めるわけにもいかないし、どうしよう……。
全体重を掛けてバゲージの上に乗っても、バーン! と、弾き返されてしまい、何度やってもちゃんと閉まらない。
部屋の中を見渡しても、あれも、これも、まだ明日の朝に入れるものがあるというのに。
今からこんなにパンパンで、どうしよう。
明日の朝、バゲージのロックが掛けられるだろうか……。
焦って、もう1度入れ直してみようと思っているところに、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
ノックする人は、1人しかいない。