新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

熱いシャワーを浴びて、洗面所の大きな鏡の前に立ち、深呼吸をして自分を映す。
シャワーを浴びたばかりで暑かったので、シャツのボタンを留め忘れていたことに気づいてボタンに手を掛けた。
エッ……。
何、これ?
右胸の鎖骨の下辺りに付いた、赤い痕。
恐る、恐る、左手でその部分を触ってみたが、別に痛くも痒くもなかった。
ハッ!
もしかして……キス……マーク?
もう1度、洗面台から乗り出して鏡に近づき、その部分を映してみた。
おまじない……。
高橋さんが、前に確かこの辺りに唇を押し当てた。
その同じ場所に存在する、キスマーク。
急に、昨日のことが思い出されて胸がキューンとなった。
ボタンを留めて、シャツの上からもう1度その場所に手を当てる。
高橋さん……。
駄目だ。
高橋さんが、好きで堪らない。
顔の突貫工事を済ませてリビングに向かうと、キッチンに高橋さんの姿が見えたので、慌てて駆け寄った。
「すみません! 遅くなっちゃっ……何、やってるんですか?」
高橋さんが、しきりにイトウのご飯を並べて数を数えながら、2つか、3つに区切りながら置き換えている。
「ん? 明日の昼までだから、これをどうやって振り分けようか、考えてるんだ」
「振り分け?」
「今朝の分だろ? 今晩の分。 明日の朝……。 やっぱり、足りないよなぁ……」
高橋さんが、残っているもので献立でも考えているのか。 ぶつぶつ言いながら、シンクの台の上で残っている食材を全部広げて真剣な顔で思案している。
プッ!
高橋さんって、こういう所は何だかとってもお茶目だったりするんだよね。
普段からは、とても想像出来ないんだけれど。
「ヨシ! 今日の昼は、外食決定」
エッ……。