新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

本当に、高橋さんはすべてお見通しのよう。
モジモジしていると、横から高橋さんに顔を覗かれた。
「正直に、言ってごらん?」
優しく微笑みながら、言ってくれている。
そ、そんなに近づかないで、高橋さん。
ドキドキしちゃう。 
ち、近い。 近いですってば、高橋さん。
「ん?」
高橋さんが、小首を傾げながら私を見ている。
「あ、あの……楽しみは、夜にとっておくって。 その……そ、それって、その……」
ギュッと、マグカップを両手で握りしめた。
「ん? さあ……な。 それは、夜の、お・た・の・し・み」
「もう!」
結局、勇気を出して聞いたのに、茶化されてしまった。
チュッ。
ひゃっ!
いきなり高橋さんが、左頬にキスをした。
「そんなことより、これ飲んだらシャワー浴びておいで。 朝食を軽く食べて、出掛けよう。 ニューヨーク、最後の日だ」
あっ!
そうだった……。
明日は、もう日本に帰る日だから、今日が最後のニューヨークの夜になる。
「はい……」
もう、New Yorkに居られるのも、今日で最後なんだ。
明日は、日本に帰らなくてはいけない。
そう思ったら、急に寂しくなってしまった。
もっと、此処に居たい。
高橋さんと、一緒に過ごしていたい。
現実的には無理なんだけれど、つい勝手に願ってしまう。
無意識というか、吸い寄せられるように高橋さんの右肩に頭を傾けて、遠慮がちに少しだけもたれ掛かっていた。
すると、黙ったまま高橋さんが右手をまわして私の頭を引き寄せた。
ずっと、このままこうしていたい……。