新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

「だからあの日、おまじないしてやっただろ?」
「おまじない?」
おまじないって?
おまじない……おまじない……。
「ハッ……」
空気の抜けたような、声にならない声で高橋さんの顔を見上げると、涼しげな瞳で高橋さんは微笑んでいた。
「そうだ。 あの時、悪い虫が付きませんようにってな」
小首を傾げながら少しはにかむように、高橋さんが笑っている。
「悪い虫?」
私まで、つられて高橋さんと同じ方向に首を傾げてしまった。
「お前のその無防備なところと、天然さが危ないんだよ」
「えっ?」
「ンンッ……チュッ……」
高橋さんのキスは、いつもより一層深く、そして激しい。
息する暇もないほど、唇がほんの僅か離れた時に呼吸するのがやっとだった。
高橋さんが、左手の人差し指を折り曲げ、私の顎をほんの少しだけ持ち上げた。
「きっと……。 本当は、もうあの頃から俺の気持ちは決まっていたのかもな」
高橋さんの気持ちは、決まっていたって……。
明良さんの別荘に行った頃から、高橋さんの気持ちは決まっていたってこと?
あの時からだったなんて……。
私にとっては、あれから本当にいろんなことがあり過ぎるぐらいあった。
辛くて、哀しくて、挫けそうになって……何度も諦めようと思ったりもした。 でも、それは遠回りなんかじゃなかったんだ。
すべて、私にとって必要不可欠なプロセスだったと今は思えるから。
だからこそ、今があるんだと……。
高橋さんに、感謝しなくては。
ずっと言葉に出さなくても、いつも傍にいて優しく見守っていてくれていた。
「あの……高橋さ……ンンッ……」
言い掛けたところで、唇を塞がれた。
「黙って」
高橋さんが、無限の深いキスをまた落としていく。
もう、体がふわふわして、シーツの波に溺れてしまいそう。
高橋さんが、私のシャツのボタンに手を掛けた。
思わず、飛び上がりそうなくらいに体が反応してしまい、怖さもあって高橋さんの顔を見た。
「俺を信じろ」
高橋さんが、キスをしながら胸の上に置かれていた私の左手をそっと片手で脇に払いのけた。
何時になく強引に、そして激しく深いキスで舌を絡めてくる高橋さんから逃れようとするが、追い掛けられてまた直ぐに捉えられてしまう。