新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

リビングの灯りがドアによって遮られ、ドアの閉まる音に驚いて後ろを振り返る。
声も出なかった。
それが意味することを知って、もう1度高橋さんの顔を見上げると、高橋さんも私を見ていた。
ほんの僅かな時間だったが、無言で見つめ合う
ベッドサイドのスタンドの灯りに横顔が映えて、高橋さんの顔は妖艶にさえ見える。
高橋さんは、その灯りの方へと躊躇いもせず私の手首を掴んだまま歩いていき、ゆっくりとベッドの縁に誘って私を座らせると、高橋さん自身も左隣に座った。
すると、高橋さんは左掌を広げて顔を覆うような仕草を見せたが、直ぐにまたその覆っていた左掌を顔から離した。
そんな高橋さんの左頬を無意識のうちに右手を伸ばし、そっと触れた。
自分でも、信じられない。
その指先は、微かに震えているのが自分でも分かる。
思いもよらない私の行動に、高橋さんも驚いた顔をしてこちらを見た。
「私も……私も、高橋さんに触れていたいです」
言った途端、大きく深呼吸しながら目を瞑った。
恥ずかしいというよりも、自分の大胆な言動に驚きを隠せなかったという方が合っているかもしれない。
震えながら、ぎこちなく高橋さんの左頬から離れはじめた私の右手を高橋さんの左手が掴んだ。
「フッ……。 まったく、お前と居ると……」
私と居ると、何?
高橋さんが、私を後ろに押し倒した。
「俺が、俺で居られなくなる」
高橋さんの左手が、私の右頬から耳にかけてゆっくりと……静かにそっとなぞった。
少しだけ体重をかけられ、高橋さんに覆い被さられているので身動きがとれない。
息が掛かるほどの距離で、見つめ合った。
「やめるなら、今のうちだぞ」
そう言われても、こういう場面に慣れてないからどうしていいのか分からず、視線を泳がせながら高橋さんを見上げた。
「そんなに、不安そうな顔するな」
高橋さんが私の右手に自分の左手を絡めると、ギュッと握ってくれた。
緊張しているせいか、指先が冷たくなっていて、高橋さんの手がとても温かく感じられる。
高橋さんは、右手で頬を包み込むと顔を近づけ、左手の人差し指で私の唇の輪郭をなぞった。
一連の仕草にされるがままジッとしていると、いつしか高橋さんの唇が重なっていた。