新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

「俺の、ここには……」
高橋さんは、自分の胸を左手の拳で叩いた。
「もう、ミサはいない」
嘘。
「何時からだろうな。 気づいたら、お前しかいない。 そう確信したんだ」
高橋さん……。
そんな……それなら、何故?
「それだったら、何故キャサリンさんとあんなこと……。 教えて下さい。 何でキャサリンさんと、あんなことをしていたんですか?」
「……」
高橋さんは、やっぱり応えてはくれない。
「高橋さん!」
「お前が、俺とキャサリンが一緒に居るどんな所を見たのか知らないが、キャサリンは酔っていて気持ち悪いからと言い出したから、一緒に涼みに中庭に出たんだ。 それで歩きながら酔いを覚ましていたんだが、途中で気持ちが悪いと言い出して俺に抱きついてきた。 そして、そのまま後ろに倒れそうになったから支えたんだが、それはキャサリンの演技だったんだ。 だから、そのまま起こそうとしたら……。 恐らく、お前はその場面を見たのかもしれない。 しかし、俺は間違ってもキャサリンに対して自分から誘ったり、お前をあの会場に放置してまで行くつもりはなかった。 キャサリンが、気持ちが悪いと言わなければ……な。 フッ……。 言い訳はしないとか言っておきながら、往生際が悪いな。俺も」
そうだったんだ。
だから、高橋さんがキャサリンさんの腰に手をまわして……。 
キャサリンさんが仰け反っていたのは、酔っていたから。 でも、それはキャサリンさんの演技で……。
「高橋さん。 私……」
「もう、いい。 済んだことだ。 さあ、帰るぞ」
高橋さんは空を見上げながらそう言うと、歩き出してしまったので、仕方なくそれに従い肩を並べて歩き出した。
でも、こんな時でも高橋さんが歩調に合わせてくれているので、私が小走りになることはない。
そんな、ちょっとした何気ない優しさを再確認してしまい、胸が痛いんだ。
このままで、いいの?
自分から手を差し出さなければ、高橋さんはもう追いかけて来てはくれない。