新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

「何で……何で、キャサリンさんとのこと……話してくれないんですか? どうして、ちゃんと説明してくれないですか? それは、認めたってことなんですか?」
自分でも、驚くほど思いっきり叫んでいた。
過去に囚われて、もう逃げ出したかったはずなのに。
何で、ここまで拘っているんだろう?
このまま断ち切れば、楽になれるのに。
でも、どうしてって思ってしまうのは、何故?
立ち止まっていた高橋さんが戻って来て、私の目の前に立った。
その漆黒の瞳の奥には、何も映っていない。
恐らく、呆れられているんだろうな。 往生際が、悪いって。
「お前が俺を信じられないんだったら、言っても意味ないだろ? 言ったところで、言い訳になるだけだ」
「高橋さん……」
高橋さんは何も語ってくれないし、否定するどころか肯定しているようだった。
このままで、いいの?
高橋さんを、引き留めなくていいの?
でも、ここで引き留めたら、また同じことの繰り返しになってしまう。
そんな心の迷いと葛藤しながら、高橋さんと暫く見つめ合っていた。
しかし、最後ぐらいこの思いを高橋さんにぶつけたかった。
「高橋さんの私に対する感情は、そんなものだったんですね。 私は……高橋さんにとって、ガールフレンドの1人に過ぎないんですよね。 それなのに、高橋さんの言葉を真に受けて、有頂天になって……馬鹿ですよね。 結局、私は……過去のミサさんには、勝てない」
「……」
「勿論、勝ち負けの問題じゃないかもしれません。 でも、もうそんな過去にも、現在にも、振り回されるのは嫌なんです」
とうとう、言ってしまった。
きっと、高橋さんは私を引き留めたりはしないだろう。
そして、何事もなかったように、これから先も普通に接してくれるんだと思う。
高橋さんは、去る者は追わず。 そう、誰かが言っていたもの。
そんな、切り替えの早い人だから……。
「だったら、もう振り回されなければいいだろ?」
「えっ?」
『もう振り回されなければいいだろ?』 って……。
それって、もう私を突き放したってこと?
そうなの?