新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

「何が、いいんだ? はっきり言ってくれないと、分からない」
『はっきり言ってくれないと、分からない』 って、自分の胸に手を当ててみればいいのに。
「私……もう、疲れちゃったんです。 キャサリンさんとは、そういう関係だったんですね」
「そういう関係って、何だ? キャサリンとは、何もないって言っただろう」
この期に及んで、まだ高橋さんは隠すつもりなんだ。
私が、知らないと思って……。
ギュッと、拳を握りしめた。
「中庭で、あんなお二人を見てもまだ信じろっていうんですか?」
言ってしまった。
引導を渡してしまった。
絶対的敗北感を、高橋さんにまた味わせてしまう。
ほんの少しだけ言ってしまったことに、後悔の気持も浮かんだが、高橋さんを思いやる余裕が今は無いに等しかった。
「そうか……」
『そうか……』 って、何で否定しないの?
何で事情があったからと、言ってくれないの?
ハッ……。
何を、考えているんだろう。
まるで、高橋さんが引き留めてくれるのを待っているみたい。
『そうじゃないんだよ』 って……慰めてくれて、謝ってくれるのを私は待っているの?
「帰るぞ」
高橋さんは一言そう言うと、踵を返して歩き出した。
その後ろ姿を見送っているわけではないけれど、この場所からどうしても動けずにいる。
これで、いい。
これで、良かったんだ。
この方が私のためでもあり、そして何より高橋さんも無理して過去を葬り去ることなど、しなくて済む。
でも……。
少し行きかけた高橋さんが、後ろを振り返った。
「ほら。 早く、行くぞ」
高橋さんは、表情1つ変えない。
何も、感じないの?
私は高橋さんにとって、そんなちっぽけな存在だったということ?