新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

「それは、貴女の勘違いかもしれないです」
エッ……。
勘違い?
目を開けてエディさんを見ると、エディさんが私の左側を指さした。
何?
エディさんが指さした方向に、ゆっくりと首だけ向けた途端、一瞬で全身が緊張して熱くなっていくのが分かった。
嘘……。
エディさんが指さした先には、交差点を足早に渡ってこちらに向かって歩いてくる高橋さんの姿が見えた。
その姿がだんだん大きくなって、顔の表情まではっきりと分かるぐらいに近づいてきている。
「やはりMr.高橋にも、貴女が必要なのですね」
背中からエディさんの声がしていたが、だんだん近づいてくる高橋さんから目が離せない。
私の姿を見つけた高橋さんと、視線が合った。
どうしよう。
逃げる? 
留まる?
でも、逃げたところで始まらない。
「Good Luck!」
エッ……。
後ろを振り向くと、エディさんがこちらに向かって手を挙げて歩き出していた。
「待って! エディさん」
呼び止めたが、エディさんは振り返ってはくれなかった。
慌ててまた見ると、もう直ぐ傍まで高橋さんが歩いて来ている。 何で、私がここに居るって分かったんだろう?
今、自分の置かれた現状とは無縁な緊張感のない、素朴な疑問が浮かぶ。
1メートルぐらい離れたところで、高橋さんが立ち止まった。
「突然、何で居なくなったりしたんだ?」
高橋さんの声は、穏やかだが隙を与えない。 まるで、仕事中の話し方だった。
「お邪魔でしたから……」
負い目があるわけでもないのに、蚊のなくような声になってしまっている。
「邪魔?」
高橋さんは、怪訝そうな顔をして小首を傾げた。
「私に遠慮などなさらないで、パーティーには最初からキャサリンさんといらっしゃればよかったのに」
つい、嫌味っぽい言い方になってしまった。
「俺が? キャサリンと、何故? お前。 何が言いたい」
高橋さんが、もう一歩近づいてきた。
「私は、もういいです。 もう、いいんです。 高橋さん」
俯いて、高橋さんから視線を逸らせた。