新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

山本さんに褒められるなんて、照れてしまう。
「あっ……い、いえ……その、これは高橋さんが……」
「ふぅーん。 貴博、あなたにメロメロなのね」
山本さんは、意味深に私の顔を覗き込みながら肩で私を小突いた。
「そ、そんなことないですよ。 ないですから。 からかわないで下さい」
暫く山本さんとの会話に夢中になっていて、高橋さんの姿が見えなくなってしまっていた。
何処に、行ってしまったんだろう。 
それに、キャサリンさんの姿も見えない。
でも、キャサリンさんの彼氏のエディさんが、先ほどからずっと同じ場所に立って居るので、キャサリンさんはこの近くに恐らく居るのだろう。
山本さんは、 『また後でね』 と、お相手の男性とそのうち何処かに行ってしまって、また独りになってしまった。
山本さんのお相手は、男性だったんだ。 やはり……というか、お相手の方は本当の山本さんをご存じなんだろうかと、要らぬ心配をしてしまう。でも、優しそうな素敵な人だった。
仕方なく、少しまた移動して隅の方の椅子に座ってプレッツェルを摘んでいると、エディさんがこちらに向かって歩いてきた。
どうしよう。
話し掛けられても、言葉が通じないかも知れないから話せない。
「お隣、いいですか?」
エッ……。
エディさん。 日本語、話せるんだ。
「あっ……は、はい。 どうぞ」
「ありがとうございます」
「あの、日本語お上手ですね」
「Just a little.  あっ。 ほんの少しだけ。 昔、日本に居たことがあるので」
「そうなんですか」
「はい。ベースキャンプに3年ぐらい居ました。 その時に、少し日本語を覚えたんです」
「そうでしたか」
エディさんは、日本に住んでいたことがあるから日本語が話せるんだ。
「あの……キャサリンさんは?」
すると、エディさんは分からないとでも言うように、お手上げのポーズをして見せた。