新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

高橋さんが振り返った途端、キャサリンさんが高橋さんの頬にキスをした。
「You never know how much I love you. See you Friday night」
挨拶のキスだとは分かって、やはり良い気分にはなれなくてドキドキしてしまう。
「何が、 【You never know how much I love you】 よ」
そんな私の気持ちを知ってか、知らずか、山本さんが隣に来た。
「ほら、早く。行くわよ、陽子ちゃん」
「あっ。 は、はい」
急かされて。適当に書類等を机の引き出しにしまうと、山本さんに背中を押されるようにして事務所を後にした。
レストランで食事をしながら、高橋さんと山本さんが会話をしている。
私は……というと、美味しそうなお料理に目移りしちゃって、会話よりも食べることに必死だった。
「よく、さっきのキャサリンの迫り具合に、上手くかわしたわね」
エッ……。
「ん? 何だ、それ」
キャサリンさんの迫り具合って、何?
何の話しなのか分からなくて首を傾げていると、山本さんがそれに気づいて話してくれた。
「貴博ね。 金曜日の支店長主催のパーティーに出席することになっているんだけど、こっちって同伴でしょう? だから、そのパートナーにキャサリンが、私がって名乗り出てきたのよ。 でも、貴博ったらきっぱり断っちゃったって話」
「えっ? 高橋さん。 金曜日は、パーティーに行かれるんですか?」
いろんなことが、頭の中を駆け巡っている。
金曜日は予備日だから、このまま順調にもし仕事が終わればフリーになる。 そうしたら、もしかしたら観光とかに行かれるかなと密かに期待していた。 でも、パーティーが入ってしまっているのなら、それも無理かも……。 観光どころか、金曜の夜はお留守番だな。
「お前も、一緒だ」
はい?
「あの、わ、私も……ですか? 私は、パーティーなんていいですよ。 そ、そんなの無理ですから」
どうも、そういう煌びやかな場所は苦手だもの。
「あら、駄目よ。 陽子ちゃん。 だって、同伴だから。 貴博のパートナーは、陽子なんだからね」
「えぇっ?」
高橋さんのパートナーが、私?
もし本当だったら、それはとても嬉しいことだけど、何だか恐れ多くて私なんかでは申しわけない気がする。
「そのために、キャサリンの申し出を断ったんだしねぇ。貴博」
嘘。
キャサリンさんの申し出を断ったって……高橋さん。
「ハハッ……。 だって、キャサリンにはエディが居るだろ?」
エディ?
「ああ。 あのエディね。 でも、エディはキャサリンにとって、都合の良い彼氏でしょ? だから、こういう機会でなければ日の目を見ないのよね」