新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

「Stop that」
「Come on, honey. Why not?」
「Cut it out!」
やっぱり、好きな人が他の女性とじゃれ合っている光景を目にするのは、いくら高橋さんを信用してるとはいえ、良い気持ちはしない。
トイレにでも行こうと思って席を立つと、高橋さんと目が合った。
別に負い目があるわけでもないのに、咄嗟に目を逸らして足早に事務所を出ると、誰かとぶつかってしまった。
「Sorry!」
急に私が飛び出したからいけないのに、先に謝られてしまった。
「Sorry」
「あら、陽子ちゃん。 大丈夫だった?」
この声は……。
「山本さん。 こちらこそ、申しわけありません。 ごめんなさい。」
ぶつかってしまった相手は、山本さんだった。
「何処に行くの?」
「ちょ、ちょっと、トイレに……」
上手く誤魔化したつもりだったけれど、私の狼狽えた行動を不審に思ったのか、山本さんに顔を覗き込まれてしまった。
「キャサリン。 来てるのね?」
うっ。
やっぱり、バレてしまった。
でも、山本さんに隠す必要もないと思い、黙って頷いた。
「そう。 でも、大丈夫よ。 貴博は、キャサリンのことは何とも思ってないと思うから。ただ、ちょっとキャサリンが大きな勘違いしてるだけなのよ」
「大きな勘違い……ですか?」
山本さんは、頷きながら笑った。
「取り敢えず、トイレに行ってらっしゃい。  私が、キャサリンが何で貴博に会いに来たのか、探りを入れておくから」
「探りって……」
「いいから、いってらっしゃい」
「はい」
山本さんは人差し指を立ててトイレの方向を指さすと、そのまま事務所の中に入っていった。
気持ちを落ち着かせるためにトイレに向かうと、鏡に映る自分に言い聞かせた。
信じていれば、大丈夫。
どんなに迷っていても、辛くても、何時も高橋さんは私に必ず手を差し伸べてくれる。
だから、きっとキャサリンさんのことも、付き合ってないと言っていた以上、信じて待っていよう。 それが、1番の得策だから。
気持ちを落ち着けて事務所に戻ると、キャサリンさんと山本さんが高橋さんの机を囲んで談笑していた。
もう直ぐ、17時で仕事が終わる。
日本と違うので、そろそろ片付けなければならない。
急いで戻って散らかった机の上を片付け始めると、高橋さんが机の前に立った。
「これから、かおりと一緒に食事に行くぞ」
「えっ?」
「TAKA! See you」
「See you」