新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

「はい」
高橋さんは、帰ってきてからまた入れたコーヒーを飲み終えると、パソコンを開いて仕事を始めた。
窓から外を見ながら、本来、雪が降ると意味もなくワクワクして嬉しかったのだが、今日はその雪が恨めしく思えた。
リビングに響く、パソコンのキーボードの音。
ゆっくりと過ぎていく、休日。
振り向けば、直ぐ傍に高橋さんが座っている。
どう考えても、こんな贅沢なことはない。
高橋さんは書類を作っていたので、あまり話はしなかったが、直ぐ傍に座ってパソコンを開いて仕事をしている高橋さんを、本を読みながら時折見ているだけで満足だった。
「何?」
うっ。
あまりにも綺麗な横顔に見入ってしまっていたからか、視線を感じて高橋さんがこちらを見た。
気づかれちゃった。
高橋さんは、持っていたペンを書類の上に軽く投げると、ソファーの背もたれに寄り掛かりながらコーヒーを口にした。
「飽きちゃった?」
うわっ。
不意に小首を傾げながら問い掛けられ、急に接近されたので体を引いてしまった。
「い、いえ。 そんなことないです」
「フッ……。 じゃあ、何でそんなに人の顔見てるんだ?」
ま、まずい。
やっぱり、気づかれていた。
「あ、あの……か、格好いいなぁって、つい……アハハ、ハハッ……」
これは、まさしく本音なんだけど。
「だぁめぇ! 減るから見ないで」
ジロッと、横目で睨まれた。
はぁ?
高橋さん。
貴方、子供ですか?
何、言っちゃってるんだろう。 相変わらず、掴めない。
高橋さんが、ソファーから立ち上がって窓の方に向かったので、その姿を目で追いながら気持ちを落ち着けようとコーヒーをひと口飲んだ。
「雪も止んだみたいだから、出掛けるか?」
「えっ? 今から、美術館に行くんですか?」
時計を見ると、すでに15時を過ぎている。 今から行っても、時間的にあまり落ち着いてみられない気がするんだけれど……。
「美術館は、また次回だな」