「でしょう? 男も女も同じなの。安心しきっちゃうと、そのうち空気みたいな存在になってきて、何時でも会えるしこの次でいいや! みたいになっていっちゃうの。所謂、マンネリってやつね。それで、気づいた時はお互い居なくても大丈夫。別に、この人じゃなくても……みたいな関係になっちゃって終わっちゃうのよ」
終わっちゃう? 高橋さんと私が……嫌だ。そんなこと、考えられない。
「それは……嫌」
「陽子?」
「そんなこと、考えたくない」
「だ、大丈夫だって。たとえば、たとえばの話だから。今直ぐ、どうのってことじゃないし、ハイブリッジにはハイブリッジの考え方があるだろうから。勿論、陽子は今のままでも十分大丈夫なのよ」
「まゆみ。どうすればいいの?」
「大丈夫。別に、今心配することじゃないから」
「そうじゃなくて」
「そうじゃない?」
「そうじゃなくて……オーラを出しまくる方法を教えて」
「……」
まゆみは、私の言葉に一瞬驚いた表情を見せたが、直ぐにその表情は不適な笑みに変わり、テーブル越しに私を手招きして顔を近づけた。
「いい?」
「うん」
その後、散々まゆみにオーラを出しまくる講釈を受け、翌日から実行に移すべく気合いを入れて出社した。

「これでは受理出来ませんので、取りに来て頂けますか。よろしくお願いします……何なんだよ、まったく。適当に書いてるだけじゃないか」
何処かに電話をしていた中原さんが、受話器を置いた途端、思いを吐き出した。
「中原。どうした?」
「すみません。書類の記入内容が不完全で、あまりにも酷かったものですから」
「それをフォローして、教えてあげるのも俺達の仕事だ。不満や愚痴をこぼしたところで、何も始まらないし何も解決はしない。その分、解決策を見出すことに労力を使え」
「はい」
珍しく愚痴をこぼした中原さんを、窘めるように高橋さんは言った。
そうかもしれない。不満ばかり言っていても、何も始まらない。まゆみも言っていた。余裕がなければ、何にしてもオーラを出しまくることは出来ないって。でも、高橋さんにオーラを出しまくるといっても……。
「さて、そろそろ行こうか。矢島さん」
「は、はい」