よく聞き取れない。
もの凄く眠くて、もう駄目。
「何? お前、眠いの?」
額を胸に押し付けていた私を高橋さんが引き離して顔を覗き込んでいるみたいで、相当近くに高橋さんの顔があるのか、うっすら微笑んでる姿が目蓋を開いたり閉じたりして視界が狭まっていても分かるぐらいだった。
どんどん目蓋が重くなり、もう殆ど開けていられない。
「まったく……そんな顔をして、目なんか瞑ったりしたら……」
自分で自分の首を支えきれなくなり、ゆらゆら揺れてちょっとした拍子に首が前にカクッと垂れてしまった。
「無防備な奴……」
高橋さんの声が微かに聞こえているので、目を瞑ったまま首を横に振って抵抗をしてみせた。
すると不安定だった私の頭に、高橋さんが右頬をのせた。
「フッ……。 普通、こんな時に寝るかよ」
高橋さん。 何?
返事をしているつもりだったが、声が出ていない。
高橋さんの呆れた声が頭上でしているのに、応えたくても言葉が出て来ないまま、自分の体が宙に浮いた気がした。
気づくと、高橋さんが私を抱っこしたまま立ち上がって、ベッドに寝かせてくれていた。
「おやすみ。 俺の……」
チュッ。
高橋さんが、額にキスをしてくれた。
エッ……。
何? 
高橋さん。
最後に、何て言ったの?
よく聞き取れなかったが、そのまま深い眠りについてしまって最後に高橋さんが何と言ったかも分からないまま、翌朝にはすっかり忘れてしまっていた 。