本当に、そう思ってくれていたの?
高橋さんが、乱れて顔に掛かってしまった私の髪を、そっと右手で掻き分けてくれた。
「まるで、針のむしろだった」
「高橋さん」
ジッと高橋さんの顔を見つめながら、高橋さんの瞳の奥にある気持ちを読み取ろうと必死に目を凝らす。
「そういう目で、見るなって」
エッ……。
高橋さんが私を起き上がらせると、そのまま強く抱きしめた。
く、苦しい……。
息が出来ない、高橋さん。
「お前を失っても、仕方がないのかなと思ってた。 心が離れて行く気がしたから。 だが、やはり失いたくない気持ちの方が強かった。 でも、お前は俺よりも、もっと辛かったんだよな」
高橋さんの言葉に、黙ったまま何度も首を横に振った。
「それでも俺は、今の仕事を辞められない」
きっと中原さんが言ってたことは、このことだったんだ。
辛い立場……。
自分の立場と私の間で、板挟みになっていたんだ。
それを私は、かえって煽ってしまった。
高橋さんが分からなくなった等と、言ってしまって。
「ごめんなさい。 私、高橋さんに酷いことを言って……。高橋さんは、何も言い返せないのに……それなのに……ヒクッ……ヒクッ……ごめんなさい。 ごめんなさい……」
「いいんだ。 俺が選んだ道なのに、女々しいことを言ってお前を振り回したんだから」
「キャッ……」
私を抱きしめていた高橋さんが体を離し、そのまま私を自分の膝の上に抱っこすると、後頭部を引き寄せて、自分の左肩に私の額を押しつけた。
ほんのり薫る、高橋さんの香り。
何だか懐かしくて、安心してしまう。
恥ずかしかったけれど、このまま離れたくなくて高橋さんの左肩に静かに額を押しつけていた。
それと同時に、ホッとしてしまったせいか、不謹慎ながら今度は一気に睡魔が襲ってきて、高橋さんの声がだんだん遠くなってきている。
「だから……きっとまた、お前に同じような思いをさせるかもしれない」
「いいんです。 もう、分かったから……私……我が儘だったん……ですから」
「それでも俺は……ことは……に……られない」
「ふぇっ? もう1回……高……橋……さん。 言って……下さ……い。 今、何て言ったんです……か?」
遠くで高橋さんの声が聞こえるけれど、よく聞き取れない。
「フッ……」