新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜

「誤解されたくなかった」
「えっ? あの、誤解されたくなかったというのは分かりました。でも、どうしてそこで私に……あれ?」
酔っているので、思考回路が上手く働かない。
「だぁかぁらぁ。お前に、誤解されたくないからだろ?」
「えぇっ? わ、私に? えぇーっ!」
「何度も言わせるな」
高橋さんの真剣な瞳が私を捉え、今の言動に淀みなど全く感じられず、嘘偽りのないことが直ぐ傍に居たせいか、酔っている私にもはっきりとそれが読み取れた。
「お前に、説明出来ない。 話せない。 でも土屋と一緒居る機会は、どんどん増えていく……。俺のささやかな抵抗だったのかもな」
高橋さんは、また天井に向かって煙草の煙を吐き出した。
そんな……そんなのって。
でも……。
「でも……じゃあ、何で土屋さんは、高橋さんのお臍に黒子があることを知っているんですか?」
どうしても、そこが引っ掛かってしまう。
「フッ……。 そもそも、お前は俺のお臍に黒子があるって知ってるのか? 見たことが、あるのかよ?」
あっ……。
声にならない疑問符に、口を開けたままそれを投げ掛けるように高橋さんを見た。
「フッ……。そんなもんなんだよ」
嘘。
それじゃあ、私は土屋さんに騙されていたの?
「高橋さん!」
でも、やっぱり確信が持てない。
高橋さんを疑っているわけではないが、お酒の力というものはこういう時、本当に凄い威力を発揮する。
そのお酒の力を借りて、どうしても確かめてみたくなった。
「お臍、見せて下さい」
「んあぁんだって?」
高橋さんは、予想外の私の発言に面食らったのか、思わず言葉を噛んでしまっている。
「本当かどうか、確認させて下さい。 そうしないと私……納得出来ないですから」
いくら酔っているとはいえ、恥ずかしかったが、もう引くに引けなくなっていた。
何か、確信出来るものが欲しい。
その一心だったのかもしれない
ネクタイは外していた高橋さんのスーツのジャケットを広げて、ドキドキしながらワイシャツのお腹の辺りのボタンに手を近づけた。
「分かった! 分かったから。お前、ちょっと待て」
「な、何でですか?」