「ごめんなさい。私のせいで、せっかくの旅行に参加出来なくなってしまって」
「気にするな。それより、早く帰れて得した気分だ」
「高橋さん……」
「さて、そろそろ送って行くぞ」
「あっ。はい」
ほんの僅かだけれど、淡い期待をしていた。 
もしかしたら、高橋さんのマンションに連れて行ってくれるかもしれないなんて、調子に乗った考えを少しだけ持っていたりして……馬鹿みたい。
ハッ!
高橋さんの背中を見ながらそんなことを考えているうちに、高橋さんが会計を済ませてしまっていた。
「マスター。後で、また伺います」
エッ……。
後で、また伺いますって?
「仁から連絡があって、寄るそうですから。その頃、また俺も伺います」
「そうですか。承知致しました」
「ご馳走様でした。美味しかったです。いつも無理言って、すみません」
「いいえ、ありがとうございます」
「ご馳走様でした。あの……ありがとうございました」
「また、お待ちしております」
マスターは微笑んで、お辞儀をしてくれた。
仁さんと後でまた来るってことは、私を送ってから高橋さんは戻ってくるんじゃ?
「高橋さん。あの……」
「お金もいらないし、お前を送って行ってからでも仁との待ち合わせには、まだまだ時間があるから大丈夫だ」
うっ。
まるで、高橋さんは私の心を見透かすように何もまだ言っていないのにその返事をしてみせると、そのまま私を車に乗せて送ってくれた。
高橋さん。
私は貴方にとって今、どんな存在なの?
私は、もう過去の女性になってしまうの?