竜と猫の国と呼ばれるウィルデン王国にはある古い伝説がある。
遙か昔、この国を囲う神々の森を護っていた孤独な竜のもとに、数人の混血が迷い込んだ。混血は猫と魔女の間に生まれた者だった。
混血の猫は深いキズを負っており、竜はその猫の傷を癒やす加護を与え、そのお礼に猫は己の魔力で香玉をつくり竜に渡した。
その香りは孤独な竜の心を癒やし、やがて竜と混血の猫はともに生きることを選んだ。それから竜と猫は共に暮らし、他国への牽制のため、竜は王となり土地に加護を与えて資源豊かな国を作り上げた。
猫はそれらを使って国を発展させ、今日の平和なウィルデン王国が存在している。
――猫族、とはいっても耳や尻尾が生えているわけではない。長い年月のなかで猫の血は薄れ、姿形は人間そのものである。時折猫の姿になれるだけの魔術士だ。
魔力の扱いが上手くできない子供のうちは猫化してしまうこともあるが、歳を重ねると自然にしなくなる。老若男女、猫族が揃って猫化するのは、二十五年に一度の『赤い満月の夜』だけである。
そんな神々しい歴史ある国で大多数を占める猫族である、調香師・ニーナ・クーリッヒの朝は早い。


