このウィルデン王国を統べる竜王族のひとり――第二王子・ロルフ・ウィルデン。
「ああ、間接キスの最中に悪かったな。構わない。続けろ」
王族らしい凜としたた佇まいに、嘲笑うような口調と向けられた冷たい目。ニーナは否定より先に昨晩のことが鮮明に蘇り羞恥のあまりカップを落としてしまった。床に叩きつけられ、砕ける悲痛な音にニーナは血相を変えて頭を下げる。
「も、申し訳ございません! 今すぐ片付け……」
ニーナは慌ててその場に膝をつき、割れた破片に手を伸ばした。
食器を割るなど、ここでいつもならばお父様の足か、お母様の平手打ちが飛んでくる。習慣で歯を食いしばったニーナに飛んできたのは痛みではなく男の手だった。
「触るな。こんなものはいくらでも替えが効く」
破片に触る直前に駆け寄った男がニーナの手を止めたのだ。
「あ……申し訳ございません……私のようなものが殿下の食器を……それ以前には、はしたない真似を」
新緑色の瞳に涙の膜を張り、震えるニーナの手を男はそっとその膝の上に戻す。
「もう謝るな。驚かせて悪かった。……ケガは」
「とんでもございません……ケガも……ありません」
「ああ、間接キスの最中に悪かったな。構わない。続けろ」
王族らしい凜としたた佇まいに、嘲笑うような口調と向けられた冷たい目。ニーナは否定より先に昨晩のことが鮮明に蘇り羞恥のあまりカップを落としてしまった。床に叩きつけられ、砕ける悲痛な音にニーナは血相を変えて頭を下げる。
「も、申し訳ございません! 今すぐ片付け……」
ニーナは慌ててその場に膝をつき、割れた破片に手を伸ばした。
食器を割るなど、ここでいつもならばお父様の足か、お母様の平手打ちが飛んでくる。習慣で歯を食いしばったニーナに飛んできたのは痛みではなく男の手だった。
「触るな。こんなものはいくらでも替えが効く」
破片に触る直前に駆け寄った男がニーナの手を止めたのだ。
「あ……申し訳ございません……私のようなものが殿下の食器を……それ以前には、はしたない真似を」
新緑色の瞳に涙の膜を張り、震えるニーナの手を男はそっとその膝の上に戻す。
「もう謝るな。驚かせて悪かった。……ケガは」
「とんでもございません……ケガも……ありません」


