【異世界恋愛】【完結】猫族の底辺調香師ですが 極悪竜王子に拾われました。

 ニーナは思わず口元を緩めた。先程までの身体の気怠さはどこへやら、身体の芯から湧き上がる好奇心にうずうずする。ふと、窓際に置かれた椅子と小さなテーブルに飲みかけのお茶が置いてあるのに気付く。自分は飲んだ記憶がないし、そうなると……彼が?

 ニーナがこの部屋に足を踏み入れたのはつい昨日のことだ。そしてこの客間に入ったのは自分と、彼だけ。ニーナは喉をゴクリと鳴らして、念のため、辺りを見渡してからティーカップを手に取った。誰もいないことを確認したのに、ひとり言い訳をする。
「……少しだけよ。別に飲むわけじゃないもの」

 先程のオレンジの香りはここからだったのだ。冷えたティーカップに小さな鼻を近づける。他人の飲みかけの紅茶の香りを嗅ごうとするなどあまりに行儀が悪いのは分かっている。が、ニーナはどうしても好奇心に勝てなかった。
 オレンジの他にハーブの香りがする。つんっとした鼻に残るそれはニーナの知らない香りだった。だが、どこか懐かしい気もする。
 なんだろう。鼻を間近まで近づけたところでガチャリと扉の開いた音がした。

 現れた男にニーナは思考が停止した。
 竜の血を受け継ぐ深海色の瞳に白銀の髪。あまり表情が変わないためか冬の澄み切った氷のような印象を与えられる。