王妃はロルフの呪いが解けたことを知らないのだ。
赤い月が満ちたとき、二十五年前の呪いの通りロルフが消えると思い込んでいる王妃は、自分に冷たい視線を向け腰の刀に手をかける姿に目の色を失わせていく。
王妃が掲げた香水はただどす黒い赤い色を際立たせるだけでなにも起こらない。
どうして、そう王妃は溢した瞬間、窓から飛び込んできたなにかに頬を殴られその場に倒れ込む。
殴り込んできたなにかは、くるりと空中で一回転すると長い尻尾と栗色の毛並みを靡かせ、人へと姿を変える。大事をとって医師のもとへ預けられた筈の猫だったが、大人しくしていられるわけがなかった。
「本当の愛が道具なんかで手に入るはずないじゃない……!」
その猫が床に爪先をつけたのと、第二王子が抜いた切っ先を王妃に向けたのはほぼ同時だった。
窓から現れたニーナは、怒っているのか、泣いているのか分からない表情で王妃に言い放つ。道具で心が手に入るなら、誰かを信じられるようになるのならそんなに悲しいことはない。
王妃はニーナが持っている《真実の愛》に気づき、ロルフの向けた剣に構わず飛びかかってくる。
「……小娘が! その香水をよこせ! 叩き割ってやる!」


