ニーナは言い返すことも、怒ることも諦めつつある自分が心底嫌いだった。
クーリッヒ邸から更に王都の中心部に進むと、王城の付近には貴族御用達の華やかな香水店やブティックが建ち並んでいる。
輝かしい軒並みを横目に小型の台車を引くニーナが向かうのは、そこから少しはずれた路地の奥にある広場だ。
この広場では事前に出店料を支払えば誰でも店を開くことができる。
母が寝たきりになった頃から約六年、ニーナは自作の香水をここで販売し、クーリッヒ家の実質的な大黒柱として生活費を稼いでいる。
個人営業のため材料の仕入れから調香、制作、販売まで全て自分でやらなければならない。体力も気力も必要な大変な仕事だが、ニーナは一日の中で香水に携われる、この時間が一番充実していると感じていた。
――この時間だけは自分を好きになれる気がする。
「あっ! ニーナ! こっちこっち!」
「リリィ!」
ニーナは大きく手を振るリリィに駆け寄った。


